自由研究を宇宙でやってみよう! 宇宙を学びの場にするプロジェクト
小学生・中学生が宇宙開発にチャレンジできる 「Space Balloon Project」始動!
高度35,000m以上の成層圏に自作の観測機を打ち上げ、GPSを使って回収。得られたデータを、トヨタやロッキードのようなグローバル企業も使うプロの分析ソフトを使ってデータ分析。結果を企業の人たちの前で発表したり、国外のコンテストでプレゼンテーションする、これまでには考えられなかった本格的なSTEAM教育×ICT人材育成プロジェクトが、この夏スタートします。
第1回のメンバーは20名。年齢に関係なく、Space Robot Contest (以下SRC)の結果などから有資格者を選び、その中から希望者を募りました。小学4年生から東大、京大の大学院生までのメンバーが、ともに宇宙開発にチャレンジします。これはオリンピック候補選手を年齢によらず、平準化された能力をもとに選抜育成していくスポーツと同じ考えです。今回は、
- 成層圏で最低一つの物理量を測定すること
- 画像解析を使って何か情報を得ること
- スーパーコンピューターの風のデータをもとに分析して、落下地点を予測すること
- 測定データをプロが使う分析ソフトを使って解析し、企業向けのシンポジウムと海外の研究発表会で発表すること
を課題として、自分でテーマを決め観測器を作るところからチャレンジしています。
彼らは、これまでに学んだこと経験したことをフルに使い、全力で一見無茶な課題に取り組みます。しかしその中から、自分でもできること、もう少し勉強すれば手が届きそうなこと、全く力が足りないことを全身で理解し、次のステップに臨むモチベーションを手に入れます。答えのない課題にアンサーではなくソリューションを求めて試行錯誤する姿は、もはや立派な研究者です。「必要な知識は自分で調べて勉強する」というスタイルで指導しているので、行列や三角関数などは小学生高学年でも使える子は使っています。海外では中学生で画像解析の基本を教えている国もありますので、無理なことではありません。何よりも、自分の作った観測機が果たして宇宙で正常に動くのかというドキドキ感は、60年前に初めて人工衛星を打ち上げたソ連やNASAの科学技術者と同じ感覚です。この醍醐味をぜひ味わってほしいのです。
そもそも、彼らが小学生の時にロボット教室やプログラミング教室の門をたたくのは、子ども向けの大会で優勝したいからではありません。みんな本物のロボットを作りたい、本当に宇宙飛行士になりたい、社会を変える発明や研究をしたいという熱い気持ちのはずです。私は、その希望に全力で応えたいと考え、大学生や企業でも使えるレベルの教材を開発し、ソフトを用意し、ステージを作っています。これはスポーツや音楽では当たり前のことです。最初から大人と同じ道具を与え、同じルールの上で競い合うステージがあります。その中で切磋琢磨してオリンピックや国際コンクールを目指していく、強いモチベーションができてきます。私はそれを科学教育でもできると考えています。なぜなら小学生がオリンピック選手や世界的なピアノコンクールで優勝するまで約10年。科学技術者を目指す小学生が自動運転の車を作り、宇宙開発を行う会社を作るまでもやはり10年くらいしかないからです。
海外のSTEAM教育との連携
子どもの理科離れをなくす会(以下e-kagaku)は海外の学校や教育現場にもカリキュラムやノウハウを提供しています。オーストラリアの小学校では図工の時間に3Dプリンターを使います。シンガポールは13,14歳の2年間コードプログラムを必修化しています。これは音楽や美術などすべての科目とICTスキルを連携させる実践的な取り組みです。アジアのほとんどのgifted studentsが通う上位校では中学校の中間期末テストでも「実験」を課せられます。私たちはこれらの学校と連携を取り、現地の学校で講座を行ったり、国際科学合宿を行っています。どの国もゴール設定をしっかり作り、指導者育成とカリキュラム作成に力をいれています。昨年ロシアのサハ共和国に招かれ、e-kagakuのカリキュラムを講演しました。「お前はどうして東京と離島や山の中の分校と同じ科学教育ができるのか教えてほしい」と言われ、学校の先生方をはじめ元大統領や教育大臣、イノベーション大臣にも熱心に聞いていただきました。
一方、日本では来年からプログラミング教育が始まり、探求学習も高校でスタートしています。現場の先生方から聞こえてくるのは、「何をやったらいいかわからない」という戸惑いの声です。「何ができたらプログラムができると言えるのか」というゴールの共有がないのは、これまでの英語必修化や理科実験指導員導入の時と同じです。e-kagakuでは現役の先生方やICT指導に関わっていただける保護者や社会人の方への講座を各地で行っています。子どもたちがなぜSTEAM教育が必要なのか、どんなICTスキルを身に着けたらよいのかをぜひ知っていただければ、子どもたちの学習環境は大きく改善されると考えています。
「AIはすでに当たり前」という考え
実は成層圏というのは、これからの宇宙ビジネスの中でもかなり有望な領域で、国や大学のプロジェクトでもたくさん取り上げられています。宇宙産業もこの5年で数倍の規模に拡大しており、福井県は今年単独で「県民衛星」を打ち上げる予定です。今の小・中学生はそれが当たり前の世の中で社会に出なければなりません。その準備を今の教育界は提供しているのでしょうか。これが私たちの原点です。アポロの技術はすでに50年前のもの。それが当たり前に使えて初めてイノベーションという言葉が現実としてとらえられる。子どもたちは指数関数的に変化している社会に出ていきます。当然求められるものも、保護者の方々が大学入試で求められたものとは大きく変化しています。
その中でもAIとデータサイエンスは大きなポイントになります。すでにソニーやNECなどから発表されたように、来春の新卒大学生から能力によって給料に格差が生じます。その最たるものがAIです。子どもたちに学習させることは計算問題なのでしょうか。e-kagakuでは実機を使った課題解決によって、大学や社会が求める人材に育成していきます。そのため、使用するものはプロが使うものも用意します。例えば分析ソフトは、MATLABとシミュリンクスというトヨタなどの自動運転開発チームやロッキードなどの航空宇宙産業の方々が世界中で使っているソフトを使います。これはアメリカのMATHWORKS社の製品でAIやディープラーニングにも非常によく使われています。e-kagakuは同社の協力のもと、我々が評価したジュニアは小学生でも使用して良いと言っていただきました。普通は大学院生くらいからスタートするのですが、どうせ使うのならば基準を満たしている子どもには早く使わせたいというコンセプトをご理解いただきました。
e-kagakuは「プログラミング」や「ロボット」を教えているのではなく、それを使って子どもたちのキャリアに直結するスキルを、すべての科目と連携しながら学んでいく場にしています。
中学・高校・大学・社会人まで継続できる学びの場
e-kagakuの受講生は、結構多くの子どもが高校生以上まで継続して学んでいます。早くから本物で学び、ゴールを見据えた学びをしていると、高校生で大きくその力を開花することがあります。
すでに以前のコラムでご紹介したように、高校までの実績で京都大学や慶応大学などAOで合格した者もいます。また、高校で様々なチャンスを得るものもいます。今年JSTが行っている「グローバルサイエンスキャンパス」に上級で選ばれた高校生の保護者の声です。
「去年から息子はグローバルサイエンスキャンパスというものに通い、今年は発展
コースに進むことができました。
大学が選抜された高校生向けにいろいろな講座や研究補助を行います。
その発展コースで海外研修に応募したところ、夏休みに香港科技大学へ行くこととなりました。
カリキュラムの内容を見ると・・・e-kagakuの国際科学合宿で韓国に行った時と変わらないではありませんか!
それを大学2年生と高校生の発展コース数名が受講するのです。
e-kagakuでは小・中学生のプログラムでしたよね!
本当に質の高いカリキュラムを用意してくださり、ありがとうございました」
アポロ11号で人類が月に立って月の石を持ち帰った1969年から50年の今年、「ハヤブサ2」が無人で地球外物質の採取に初めて成功しました。これからの宇宙開発は加速度的に進むとともに、50年前のアポロの技術が当たり前に使えるジュニアを育成しなければ、さらなるイノベーションは期待できないというのが我々の設立のコンセプトです。そしてそれは可能です。子どもたちへの本物の科学研究教室・合宿や保護者向けの講演をどんどん発信しています。
(ダイヤモンドOnLineに掲載されたものです)
夏休みは始まったばかり。良かったらe-kagakuで検索してみてください